ジョバンニとねこ

繊細すぎてあまりわかってもらえない心を吐き出す場所。

忘れられなかった人との終わりは、しつこい女になるしかなかった

土曜日、別れてもずっと好きだった人とご飯に行った。

別れて8ヶ月、苦しんだり、好きだと思ったり、憎んだり、悲しんだり。毎日気持ちが変わった。誰かといても、仕事をしても、一人でいても、彼を思い出した。

ジェットコースターみたいだった。

 

別れてから、何度も連絡をした。

普通の話は返してくれても、都合の悪い話は無視された。

話したい、会いたいとお願いしても、もう少し時間空けた方が良くない?と言われた。半年ぐらい開けた方がいいよ、と言われていた。

 

彼は、いつも、主語を自分にしなかった。

それは、無責任で向き合うことから逃げていたからだと思う。

 

〝私にとって〟もう少し時間を開けた方が良くない?

 

そういう風に言われると、私は自己主張が出来なかった。どうせ私が自己主張しても無視されるからだ。そうなると、私の言葉は宙を待って、そこら辺に放り出されてしまう。行き場をなくした思いは、転がったまま、何処へも行けずに自分で回収するしかない。そうして私は苦しみ続けた。何も私の気持ちを受け取ってはもらえなかった。付き合っていた頃から、それは変わらない。好きと言う言葉すら、私は受け取って貰えなかったのだ。

 

向き合ってはもらえないのは、そういう人だし、それが答えだと周りは言う。

でも、私はそれでは、全然わからないのだ。納得ができないのだ。心が暴れるのだ。

 

あれだけ助けてくれたのは?実家に連れて行ってくれたのは?一緒に住もうと言ってくれたのは?旅行だって行こうとしてたじゃない。どうしてまだ返事をくれるの?どうしてご飯に行ってくれるの?どうして仕事でそこまで助けてくれたの?どうして鬱を患った私も受け入れてくれたの?

 

なんで?どうして?その言葉だけが宙を舞い、何処にも受け入れられずに自分に返ってくる。

 

前を向こうといろんな人とご飯に行った。デートもした。付き合ってみた。結婚を考えてくれる人もいた。なんて有難いんだろうと思った。

あの人と違って、なんて話しやすいのだろうと思った。

 

でも、誰かといてもいつも思い出すのは、あの人だった。デートが終わり、家に帰ると何故だか泣けた。もう、私の心は楽しいデートじゃ持ちこたえられなくなっていた。私を好きになってくれる素敵な人でも、優しくされることが辛かった。私の苦しみをしらない人に、私の何がわかるの、と、世界にひとりぼっちになっていた。もう自分が何に苦しいのか、何を悩んで何に執着しているのか、わからなくなった。

 

思い悩むと、彼の家の前まで行った。

彼の部屋のカーテンは、いつも半開きだった。

部屋に灯りがついていると、影が見えないか期待した。ああ、これじゃ、ストーカーになってしまう。そう思って家に帰ることが何度かあった。

 

ご飯に行く約束をしてから、私は毎日がとても楽しくなった。一生1人でもいいから、彼を好きでいようと決めたからだ。夢は、彼の子供を作ってシングルマザーになることだと思った。それで私は一生幸せに生きられるとすら思った。けれど、何を言えば決着が着くのか、考えても考えても答えは出なかった。彼は自分が主語の話をしないから、彼の核の部分が想像できず、どうぶつければいいのか、私自身も私の気持ちをうまく整理できなかったのだ。

 

ご飯に行くと、表情の乏しい彼がいた。

あまり幸せそうには見えなかった。

そして、ポツポツと話をした。当たり障りのない話をしんみりとした。

 

19時過ぎに集合して、21時前に解散しそうになった。ああ、これがきっと最後のチャンスだと思い、自分の思いを打ち明けてみた。

どうせ質問しても、答えてくれないのだから、自分の思いを打ち明けるしかやり方がなかった。

 

別れてから忘れようと思って、何人かの人と付き合ってみたのだれど、どうしても頭にチラついて、向き合えなかった。私は多分、今でも好き。どうこうしようって話じゃないんだけど。

 

そういうことを言ってみた。

けれど、戦時中の人だって、赤札貼られて夫が戦争で亡くなった人だって、再婚してる。

そんな話をしてされた。

私が聞きたいのは、そんな話じゃなかった。

 

そのまま、帰ることになった。駅まで送られた。彼は徒歩で帰り、私は電車に乗らなければ帰れない。駅に向かおうと足を進めたけれど、私の心は何も納得していなかった。このままじゃ、私が今日来た意味はない。

そう思って彼を追いかけて走った。500mは走った。後ろから肩に触れると、物凄くびっくりした表情をされた。

 

こういうことされると会いづらくなる。

帰った方がいいよ。

 

そう言われた。

そういう話じゃないのだ。

でも、それが上手く言えなかった。

彼の雰囲気がそうさせたのか、私の口から言葉は何も出なくなった。彼は家まで歩き続け、私も彼について歩いた。2人とも無言だった。

ほとんど彼の家に着いた頃、もう帰った方が良い。この先はない。

そう言われた。

 

それなのに、私はまだ納得できなかった。

無言で20分は道路にいただろう。

彼が、じゃあもう帰ると歩き始めた。

私は、本当にこんなので帰れないと後ろから走って追いかけた。

 

じゃあ、私の嫌いなところを言ってください

 

頼んだけれど、無視された。

 

(私のこと)嫌いですよね?

 

そう聞いた。

 

嫌い。

 

私の顔も見ずに言われた。

 

ああ、やっと聞けた。やっとその人の腹のなかからの言葉が聞けた。

 

すみませんでした、じゃあお元気で!

 

彼の背中にそう言って、私はやっと自分の家に帰ろうと思った。

 

帰り道、辛くて辛くてもう死んでしまいたくなった。こんな私もういらない。そんな気持ちになって、頼れそうな先輩に電話してみたけれど、出なかった。大学からの親友に電話してみると、出てくれた。

 

話を聞いてもらうのは申し訳ないけれど、彼女にたくさん話を聞いてもらった。彼女がいたから、今私は生きていると思う。

 

辛くて仕方ない時もあるけれど、これでよかったという思いだけは、はっきりとある。

向こうに何を思われているかはわからないし、ただ最低最悪なしつこい女だと思われているだろうけど、私は私にとって、間違ったことはしていないと確信している。私の正義を貫いたのだ。

 

私の思考の大部分を彼が占めていたから、いまは空っぽのような状態だ。まだ、たまに悲しくなったり恨んだり、思い出すこともあるだろう。けれど、やっと前を向けるのだと、強く強く私は思う。